デザインのアクチュアリティ
デザインは本来より多様な可能性を持った分野であったはずだった。しかし産業化や新自由主義の流れのなかでデザインが持つ役割は極めて限定化された。いまこの時代に生きる我々のアクチュアリティから、今一度、デザインの可能性を広げることは可能だろうか。
本研究会では、直接的に「デザイン」にかかわらずとも、その手がかりとなるはずの文献や事例を取り上げ、調査を進めていく。
最初に取り上げるのは、国家権力が引き起こす暴力事件を建築的思考と手法を用いながら捜査する調査機関フォレンジック・アーキテクチャーの主宰者である建築家のエヤル・ヴァイツマンと、メディア・アーティストのマシュー・フラーによる著作『調査的感性術——真実の政治における紛争とコモンズ』である。
研究会は、月 1 回ペースで金曜夜にオンライン (Zoom) で、多様な参加者に開かれたかたちで運営しています。参加希望の方はcontactから。
スケジュール
5月23日 (金) 19-21時:『調査的感性術』序章
本書への導入として、フォレンジック・アーキテクチャーという組織についてその作品を交えて紹介しつつ、デザインの観点から「序章」の読解をおこなう。本レクチャーを担当するのは島影圭佑。その後、石井と佐々木の観点からの短い注釈 (Short Comment) を踏まえて、参加者を交えた議論に移る。
7月4日 (金) 19-21時:第1-2章 感性術について
本書の中心的概念の一つ「感性術(aesthetics)」を理解する。この概念の意味は、美学一般におけるそれとは異なっており、その体系的位置(感性化、超感性化、感知(作用)、意味形成、同調などの他の類語との諸関係)を特定することで明らかになるものである。
8月1日 (金) 19-21時:第3-4章 超感性術について
「超感性術(hyperaesthetics)」は、大きく三つのカテゴリー(増幅/増殖`-多様化-翻訳`/合成)からなる「感知作用を拡張する」行為である。FAの方法一般とも言えるこの概念を理解する。「イメージとしての世界に超感性術的に住まうことの衝撃は、幻想さえもすべて現実になってしまうことにある」。
9月5日 (金) 19-21時:第5-6章 感性超過と感性術的権力
感性超過は「国家と帝国の基盤である」。「感覚による知覚が根本的に過負荷になる神経学的疾患」として定義される感性超過を特にその政治的側面から理解する。さらに、フーコーの主権的権力`/規律権力をモチーフにした、ヒトとモノの今日的統治形態「感性術的権力」を理解する。
9月26日 (金) 19-21時:第 1 部「感性術」全体のリフレクション
ここまでの全4回の議論全体をまとめ直しながら、フォレンジック・アーキテクチャーの企ておよび主要な理論装置の一つである「感性術」論について、とくにデザイン(デザイン史)の観点から省察する。
to be continued…
コラボレーター
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島影 圭佑
公立はこだて未来大学 准教授/武蔵野美術大学通信教育課程 臨時講師
専門はデザイン。ありえるかもしれない「別の」デザインを実践/研究/教育を通じて探求・開拓。障害福祉・情報技術・デザインの交差点、知の生成と流通の現場としての展覧会、思索のためのデザインなどを主題に活動。
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石井 大介
京都芸術大学 芸術教養センター 専任講師
芸術におけるアートとテクノロジーの不可分性、また両者を繋ぐ概念としてのデザインに関心を持ち、商業的な記号化としてのデザインだけではなく、脱記号化の側面も持つデザインの二重性について教育/研究活動を行う。
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佐々木 晃也
大阪大学大学院人間科学研究科 博士課程
専門は哲学(とくにスピノザの倫理学・価値論)。「我々はどうでもいいものをつくっている」という前提から、デザイン(その行為と産物の両面で)の人間学的・倫理学的な積極性と限界に関心をもつ。